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近年、環境への配慮や脱炭素といった考え方が、私たちの暮らしやモノ選びの基準として定着しつつあります。そのため企業や研究機関などには、高い性能を実現しつつ環境負荷を抑えられる新素材の開発が求められています。
そうしたなかで注目されているのが、植物由来の次世代素材「セルロースナノファイバー(CNF)」です。再生可能な資源から生まれ、しかも「強くて軽い」この素材は循環型社会の実現に貢献する存在として大いに期待されています。
この記事では、セルロースナノファイバーについての基礎知識からその特性や用途、そして世界初の製品開発に挑む企業の取り組みまでを、わかりやすく解説します。
セルロースナノファイバーとは? 植物から生まれた、未来を支える新素材
セルロースナノファイバーとは、「セルロース」をナノ(1mmの100万分の1)レベルまで細かくほぐして得られる繊維素材です。
定義は以下の通りです。
・断面方向の寸法が3~100nm(ナノメートル)・アスペクト比(長さ÷直径)が10以上
・長さは最大で100μm(マイクロメートル:1mmの1,000分の1。別称ミクロン)程度
この条件を満たすバイオマス由来ナノ繊維が、セルロースナノファイバーとされています。
実はセルロース自体は珍しいものではありません。植物(あるいは紙)の主成分であり、地球上にもっともたくさん存在する炭水化物です。この私たちにとって身近なセルロースをナノサイズまで微細化すると、従来素材にはない高い性能が引き出されるのです。

セルロースナノファイバー最大のメリットは、植物由来で再生可能な資源であることです。そのため石油由来のプラスチックやゴム素材を代替・補完する材料として、脱炭素社会の実現に貢献することが期待されています。
原料として、間伐材や食用・飼料用作物を収穫した後に残る茎や葉など、これまで十分に活用されてこなかったバイオマス資源を利用できる点も大きな魅力です。資源を無駄なく循環させるという観点からも、セルロースナノファイバーは持続可能な社会に適した素材であるといえるでしょう。
軽くて強いだけじゃない。セルロースナノファイバーが注目される理由
セルロースナノファイバーが注目される理由は、優れた環境特性だけではありません。材料としての性能面でも、非常に優れた特長を持っています。
代表的な特長が、高強度かつ軽量であるという点です。セルロースナノファイバーは鋼鉄の5倍以上の強度を持ちながら、重さは約5分の1しかありません。「強いのに軽い」という特性は、製品の省エネルギー化や耐久性向上に大きく貢献します。
さらにセルロースナノファイバーは、
・高い弾性
・熱による伸び縮みが少ない低熱膨張性
・透明性の高さ
・吸水性が高く、粘度を安定して保ちやすい
といった有利な特長を備えています。
これらの多様な特長を持つからこそ、用途ごとに異なる厳しい要求に対応できる素材として、幅広い活用が期待されています。例えば、自動車用部品では軽量化と高耐久性の両立が求められ、化粧品や食品では安全性や分散性、安定した粘度などがいずれも必要不可欠な要素となります。
セルロースナノファイバーは、こうした幅広いニーズに対応できる新素材として研究・開発が進められているのです。
身近な製品から最先端分野まで。セルロースナノファイバーの用途

出典:環境省「CNF活用でカーボンニュートラル社会の実現へ」
セルロースナノファイバーの活用は、すでに私たちの身近なところから最先端の産業分野にまで広がりつつあります。
産業分野で注目されるのは、自動車や航空機のボディ、構造部材などへの活用です。セルロースナノファイバーの特長をいかした軽量化による燃費向上や耐久性の向上は、環境負荷低減と安全性向上の両立にもつながります。
2016年に開始された、環境省と京都大学を代表事業者とした計22の大学・研究機関・企業により実施された「NCVプロジェクト」では、セルロースナノファイバーを用いた自動車が開発され、10%を超える軽量化を実現しました。

出典:環境省「CNF活用でカーボンニュートラル社会の実現へ」
暮らしに近い分野でも、セルロースナノファイバーの利用は始まっています。高い保水性や分散性を活かし、日用品や化粧品の増粘剤、機能性物質の分散剤として利用されています。使用感を向上させつつ、植物由来素材を取り入れているという点は、消費者にとっても安心感につながるでしょう。
さらに、摩擦や発熱、繰り返しの負荷がかかる部材への応用に向けた検討も進められています。他の素材とセルロースナノファイバーとの複合化によって材料特性が改善され、これまで難しかった用途にも対応できる可能性が期待されています。
植物由来素材でベルトを進化! バンドー化学の挑戦

伝動ベルトは、動力を伝達するために欠かせないものとして、現在様々なシーンで私たちの暮らしや産業を支えています。
この伝動ベルトには柔軟に曲がる性質と、力を確実に伝えるための剛性という、相反する性能が求められます。この難しい課題をクリアするための“カギ”となったのが、植物由来の新素材・セルロースナノファイバーでした。バンドー化学はこのセルロースナノファイバーの可能性に注目し、世界で初めてセルロースナノファイバーを用いた伝動ベルトを開発。それが、セルロースナノファイバー複合化ゴムを採用した、「高負荷対応のダブルコグベルト」です。ゴムとセルロースナノファイバーの複合化により、しなやかさと強さを両立させ、従来製品と比べて伝達能力・耐久性に優れた性能を実現したのです。
さらに、業界最高水準の低発熱性による長寿命化、駆動システムのコンパクト化によるCO2排出量の削減を通じて、持続可能な低炭素社会実現にも貢献できる製品となっています。
1906年創業のバンドー化学は、日本で初めて木綿ベルトを製造し、日本の工業化を支えてきた老舗メーカーです。長年培ってきた伝動技術に、植物由来の新素材という新たな価値を掛け合わせることで、「環境負荷低減」と「高性能化」を同時に実現しました。地球環境保全活動や資源の有効活用にも積極的に取り組みながら、これからも人と環境にやさしい「ものづくり」を追求し続けていきます。
まとめ
セルロースナノファイバー(CNF)は、植物由来で再生可能な資源を活用した次世代素材です。「強くて軽い」という優れた性能を備えながら、環境負荷低減にも貢献できる点で、大きく注目されています。
すでに自動車部品や日用品など幅広い用途で活用が進んでおり、バンドー化学のように世界初の製品化事例も生まれています。持続可能な社会を支える素材として、セルロースナノファイバーは今後ますます重要な存在となっていくでしょう。
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監修:でぃすかばーBANDO編集部



